360度フィードバックの実施において、設問の内容や表現は皆さんが想像されている以上に実施効果に大きな影響を与えます。
設問は単なるアンケート項目ではありません。
設問内容は、「どのような組織を目指しているのか」「管理職にどのような行動をとってほしいのか」という企業の意志そのものであり、組織づくりの“道しるべ”です。
適切とは言えない設問内容にしてしまうと、360度フィードバックは本来とは逆の方向に作用し、せっかくの施策が逆効果となってしまうこともあります。
実例:組織風土の転換をめざしたはずが…
ある大手企業での実例をご紹介します。(実際の内容から一部の表現を修正しています)
この会社は、社長や役員の発言力が極めて強く、典型的な上意下達の風土でした。現場の社員は、上から指示されたことを遂行することが中心となっており、自ら考えたり意見を出したりする雰囲気がない組織も多く、業績も低迷する状態が続いていました。
こうした状況を改善すべく、人事役員は「風通しの良い組織づくり」「心理的安全性の高い組織」を目標に掲げ、様々な改革施策を検討しました。その中で、「部下から上司へ意見を言える風土を育む」という目的から、課長クラスに対する360度フィードバックの導入が決まりました。
部下が上司に依存することなく、自立的に動ける現場づくりを目指すことになったのです。
ところが、ここで想定外の事態が起こります。
360度フィードバックの設問設計を主導したのは人事部長でした。
そして彼には「組織には強いリーダーが不可欠」という自らの経験に基づく強い信念(こだわり)があり、次のような設問を設計したのです。
「強い信念をもって組織の方向性を打ち出し、率先垂範しているか」
「目標達成に向けて的確な指示を出し、部下を叱咤激励しながら完遂させているか」
「組織で決めたことは、部下に徹底してやらせているか」
「部下の仕事をチェックし、改善に向けて厳しく指導しているか」
いずれも“強いリーダーシップ”を問う内容で、合計約30個の設問が並びました。
フィードバックの結果が示した“ねじれ”
360度フィードバック実施後、課長一人ひとりに結果が返却され、結果を読み解く自己分析研修も行われました。 その研修の中で、次のような状況が生じました。
普段から部下に優しく寄り添い、部下の自主性を重んじるタイプの課長のスコアが軒並み低かったのです . . . . .
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